思い込みと言語感覚

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昨日ようやく翻訳を終えました。この作業の中で考えたこと、あるいは脱線しながら見えてきたことを、今更ながら振り返っておこうと思います。

背景となった文(原文):
In this way, liquid 11 can be provided in that space so that the patterned radiation beam that is projected through the projection system PL onto the substrate W passes through the liquid 11.

この文に対する訳文は、記事の中でも取り上げました。ブログにて触れていただきありがとうございました。

“patterned radiation beam”の違和感

この用語について、自分なりの理解はありました。

光源から放射されたビームがマスクを通過し、空間的に構造を持つビームとなってウエハに照射され、ウエハ上のレジスト層にパターンが露光される。この一連の流れは、ある程度イメージできていたつもりでした。

ただ、「マスクによって構造が与えられたビーム」に対して「パターン付きの」と表現することには、当初それほどの違和感を感じていませんでした。

たとえば、「味付きの肉」「色付きフィルム」など、加工の有無や手段の詳細にかかわらず、「あとから何かしらの性質が加わったもの」について、日常生活ではよく、「XX付き」という言い方をします。それと同様に、マスクを通過した結果、空間的な構造が加えられた放射線についても、「構造化されたビーム」ではなく「パターン付きのビーム」と表現しても問題ないのでは?そんな感覚があったように思います。

ですが、この“感覚的に許容できてしまう”ということこそが、実は特許文書のように厳密さが求められる文脈では誤訳を招く危うさにつながると、今回改めて感じました。
特に、露光の結果として「パターン付き」になるウエハのレジスト層などが、同じ文脈内に登場する場合、それとの混同を引き起こすリスクがあります。つまり「違和感がない」ということ自体が、誤訳につながっていくのだと考えました。

関連資料・明細書の読み込みが十分にできていれば気づくポイントだったのだとも思えますし、その点での読み込みを増やすことももちろん必要なのですが、その状態でもなお立ち止まるヒントがあったのではないか、今後のために考えました。

一語の見直しから始まる理解の整理

ブログでのご指摘を受け、この表現を「パターン化された」にして読み返したとき、ようやく、「これって、ウエハ上の”パターン形成”と混同されるのでは?」とフラグが立ちました。「パターン付き」という表現では、確かに物理的に模様が付いているように聞こえかねません。

そう考えると、「レジストにパターンが現れる」=“模様付き”と、「マスクを通って空間的構造を持ったビーム」を、どちらも「パターン付き」という言葉で表現するのは非常に紛らわしい、という点にようやくたどり着けました

実際検索を通じて確認した限りでも、「パターン付き」はやはり、露光後の結果として物理的に模様が形成された対象物に使われることが多く、「パターン化された」は、マスクを通過して構造を持った光やビームに使われる傾向が強いようです。

今後、こうした表現が出てきた際には、その語が“状態”を示しているのか、“結果”を表しているのかを意識的に見極める癖をつけていきたいと思います。

また翻訳においては、自分の訳をそのまま見直すだけでなく、(難しいでのすが)その訳語が読み手に誤解される可能性がないか?という観点で、一歩引いて見直すことを意識したいと思います。

まとめ

たとえ一語であっても、自分の誤解や思い込みが表れたポイントには、必ず何かしらの“学びの芽”があるはずだとも考えます。

実務の中で一語一語を深掘りすることは現実的ではありません。今のうちに、そこで立ち止まる習慣を付けることで、自分なりの見極め力が育つ学びを増やしていきます。

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