蒸気圧曲線から

smoke coming from a gold container 学習記録

今回、エッチング処理に関する特許を読む中で蒸気圧曲線が登場しました。基礎を整理し直し、次回明細書に進みます。

蒸発と沸騰(気化現象)

物質が液体から気体へ変わる「気化」には、蒸発沸騰があります。

  • 蒸発液体または固体の表面だけでおこる気化の現象
  • 沸騰:一定の温度(沸点)に達すると、液体表面だけでなく内部でも気泡が生じて気化が進む

(理化学辞典第5版)

この対比を理解すると、その後の理解がしやすくなると思います。

蒸発とは

水を入れたコップを置いておくと水がいつの間にか減っていきます。
これは表面の水分子の一部が空気中に飛び出すからです。表面の分子のうち、十分な運動エネルギーを持つものは表面から飛び出し、気体になります。これが蒸発です。

なお同じ温度でも分子のエネルギーにはばらつきがあり、高エネルギー分子が少数存在するため、沸点に達していなくても常に蒸発は進みます。

気液平衡と飽和蒸気圧

次に水を密閉容器に入れると、最初は蒸発で気体分子が増えますが、やがて気体が液体に戻る凝縮も起こり、両者は釣り合います。これを気液平衡状態といます。

このときの気体の圧力が、飽和蒸気圧と言います。温度ごとに一意に決まります。

気液平衡は、蒸発と凝縮が同じ速度で釣り合った平衡状態であり、そのために、見かけ上は変化が止まっているように見えます。

そしてこの蒸発速度と凝縮速度が釣り合った状態の気体を圧力という指標で判断しているのが、飽和蒸気圧です。気液平衡が速度と圧力とで語れるのはそのためです。

沸騰とは

まずは沸騰するまでに水内部で何が起きているかを確認します。

液体を加熱すると、内部に小さな気泡が発生します。その内部の圧力が、その温度に対する飽和蒸気圧です。

この気泡には外圧がかかります。外圧は大気圧だけでなく水圧も含みますが、微小であり無視し得ます。

気泡内部の飽和蒸気圧が外圧よりも低ければ(内部の飽和蒸気圧<外圧)、気泡は押しつぶされて消えてしまいます。しかしこのまま加熱していき、内部の飽和蒸気圧が外圧と釣り合えば内部の飽和蒸気圧=外圧)、気泡はつぶれずに存在できます。

ちなみにこの条件を満たしたのが、沸点です(後述)。

液体内部でも安定した気化が起こり、マクロで見ても泡が激しく出る=沸騰、が確認できます。

蒸気圧曲線の形

温度ごとにこの飽和蒸気圧をプロットした曲線が、蒸気圧曲線です。
水など純物質の蒸気圧曲線は、温度の上昇とともに指数関数的に右肩上がりになります。これは、温度が高いほど分子の運動エネルギーが大きくなり、液体表面から飛び出す分子が増えるためです。

教科書ではこのような図を見るのではないでしょうか(1K=-273.15℃)。

蒸気圧曲線(出典:株式会社IDAJ)

この蒸気圧曲線の曲線上気体と液体が存在する状態であり、曲線より上の領域であれば外圧の方が大きく先ほどのように気泡がつぶれるので液体が安定し、曲線より下の領域であれば、飽和蒸気圧が大きければ気体が安定します。

水の状態図(出典:理科年表

蒸気圧曲線を用いることで、沸点を知ることもできます。

蒸気圧曲線と沸点

沸点とは、『液体の飽和蒸気圧が外圧に等しくなる温度で、沸騰がおこるときの温度』(理化学辞典第5版)です。つまり、液体内部から気化する力(飽和蒸気圧)が、外から押さえつける力(外圧)にちょうど釣り合ったときの温度です。このとき内部の気泡は押しつぶされずに成長でき、液体全体で気化が進みます。

蒸気圧曲線は、こうした沸点の候補点を圧力ごとプロットしたものです。実際に沸点を確認するには、外圧に相当する水平線を引き、蒸気圧曲線との交点を横軸に下ろします。イメージとしては、グラフ上に透明セロファンに書いた外圧の水平線を重ね、その交点を探す感覚を持つと理解しやすいかと思います。

大気圧 vs 高山 vs 圧力鍋

外圧によって沸点が異なることを身近な例で、比べてみます。

大気圧(1atm=101325Pa=1013.25hPa)では、沸点は100℃373.15Kで、グラフ内で記載の通りです。

高山(例えば0.8atm≒約810hPa)では、同じグラフから読み取ると、沸点は約94℃(約367K)に下がります。

一方、圧力鍋(例えば1.7atm≒約1700hPa(※))では、今回の図には描かれていませんが、外圧が大きい分だけ水が沸騰しにくくなるため、沸点は110℃を超えることが分かります。

基礎の復習はここまでです。

次回は実際の特許明細書に登場する蒸気圧曲線を題材に見ていきます。

参照:
(※)圧力鍋協議会 圧力鍋の圧力は、大気圧を基準にしたゲージ圧で記載されるため、『概ね圧力50~150kPa』との記載は、絶対圧に換算するとおおよそ1500hPa~2500hPaに相当します。

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