見直しの気づきの最終版3です。
“flow past”の検討
The method also includes substantially preventing a gas from flowing past a deformable seal between a radially outer surface of the final element and a radially outer surface of the barrier member.
(公開訳)
方法は、気体が、最終要素の半径方向外側の表面とバリア部材の半径方向外側の表面との間にある変形可能なシールを越えて流れるのを実質的に防止することも含む。
(自分訳)
この方法はまた、ガスが、最終要素(⇒最終素子)の半径方向外側の表面とバリア部材の半径方向外側の表面との間の変形可能なシールを、すり抜けて流れることを実質的に防止することも含む。
検討:
ここは、最終素子とバリア部材との間のシール部材が、若干の隙間を持たせた構造であることを前提に、ガスの流入は実質的に防ぎつつ、液体の通過は許容するというバランスについて述べた箇所です。
このときに用いられる”flow past“は、あくまで、最終素子やバリア部材などの構造体とシール部材との間にわずかに存在する隙間を流体が通過することを想定していると考えられます。
イメージとしては、筒状の構造に口径よりわずかに小さな玉が入っており、その隙間を流体が通るような構造です。
なおシール自体は弾性や可撓性を有する部材であるため、膜のように「通過」したり「突き破る」ようなことを想定されていないと考えます。
この点から、「通過する」では言葉足らずに思い、「すり抜ける」としましたが、あらためて読み返すと、これには流体が自発的(意図的)に動いているような印象があり、構造的な隙間を通って流れるというニュアンスとのズレがあります。また「シールそのものをすり抜ける」ようにも読めてしまい、誤解を招きかねない表現です。
「漏れる」も選択肢の1つとして検討しましたが、それであれば”leak”が使われたはずであり、また液体の「漏れ」というネガティブな含意が、今回の構造にはそぐわないように思えます。
現時点では、液体気体ともに「通過する」という表現が最もニュートラルでが妥当であると考えています。
酸素の分圧と吸収
Providing a gas having a low partial pressure of oxygen to the gap may prevent oxygen from dissolving in the liquid 11 and being absorbed by the beam of radiation that is projected by the projection system.
(公開訳)
酸素の低い分圧を有する気体をギャップに設けると、酸素が液体11に溶解し、投影システムが投影した放射ビームによって吸収されるのを防止することができる。
(自分訳)
酸素の分圧が低い気体をギャップに供給することで、酸素が液体11に溶解することや、投影系により投影される放射線ビームによって吸収されることを防止し得る。
検討:
ここでは、酸素の分圧を低く保つことにより、酸素が液浸液に溶解しにくくすることが狙いです。
酸素も水に溶解し、しかも活性が高いため、放射線ビームに吸収されると液浸液に酸素が溶解していれば、酸素は放射線を吸収し活性酸素が生成されます。これがコンタミや、光学系の屈折率変化を引き起こすうえに、ビーム自体のエネルギー低減にもつながります。いずれもリソグラフィの精度を損ねる要因となるため、極力避けたい事態です。
なお、”provide“は、「設ける」より「供給する」とするほうが、ガスをギャップに導入するという意味が明確に示せるように思います。
請求項に関する見直し
明細書本文において多くの修正を行った結果、最終的に請求項部分は再度訳出・比較しなおしました。
請求項では、液浸液をいかにして保持して、蒸発・汚染を防止するかという複数の例が示されています。またこれに関連するシールの手段についても様々な形態を含むような記述があります。
1.A lithographic apparatus comprising:
a projection system configured to project a patterned radiation beam onto a target portion of a substrate, the projection system having a final element;
a barrier member surrounding a space between the projection system and, in use, the substrate, to define in part with the final element a reservoir for liquid, the barrier member being spaced from the final element to define a gap therebetween; and
a deformable seal between a radially outer surface of the final element and a radially outer surface of the barrier member, the deformable seal being configured to substantially prevent a gas from flowing past the seal towards or away from the reservoir of liquid and configured to allow fluid to pass the seal when liquid is between the radially outer surface of the final element and the radially outer surface of the barrier member, wherein the deformable seal is located between a substantially horizontal surface of the barrier member and a substantially horizontal surface of the final element.
<公開訳>
パターン付き放射ビームを基板のターゲット部分に投影する、最終要素を有する投影システムと、
前記投影システムと使用時の前記基板との間の空間を囲み、一部は前記最終要素とともに液体のリザーバを規定し、また、前記最終要素から離間されて、その間のギャップを規定するバリア部材と、
前記最終要素の半径方向外側の表面と前記バリア部材の半径方向外側の表面との間にある変形可能なシールと、
を備え、
前記変形可能なシールが、前記バリア部材の実質的に水平な表面と前記最終要素の実質的に水平な表面との間に配置され、(前記変形可能なシールが、例えば油などの第二液体を含む、)
リソグラフィ装置。
※公開訳は補正されており、また英文原文の一部が反映されていないために完全な比較とはなりませんが、参考にしました。
<自分訳>
パターン化された放射線ビームを基板のターゲット部分に投影するように構成された投影系であって、最終素子を備える前記投影系と、
一部、最終素子とともに液体リザーバを画定するように前記投影系と使用時の基板との間の空間を囲むバリア部材であって、前記最終素子との間が離隔されることで両者の間のギャップを画定する、前記バリア部材と、
前記最終素子の半径方向外側の表面とバリア部材の半径方向外側の表面との間の前記変形可能なシールであって、前記リザーバの液体に向かって又は液体から離れるように、ガスが前記シールをすり抜けて(⇒通過して)流れるのを実質的に防止するように構成され、及び、前記最終素子の前記半径方向外側の表面及びバリア部材の半径方面外側の表面との間に液体がある場合に、液体が前記シールをすり抜けられる(⇒通過する)よう構成され、バリア部材の略水平表面及び最終素子の略水平表面との間に配置される前記変形可能なシールと、
を備える、リソグラフィ装置。
検討:
英文では、「~するXXであって、……するXX」という文の型が繰り返されていて、各構成要素について前半(~部)は機能、後半(……部)は状態・構成に関して記述されています。
請求項で権利の範囲が決定されるという観点から、原文構成に忠実に訳しましたが、却って冗長になった印象もあります。公開訳は、いずれもこのXXの重複部分は訳出せずに簡素化し、「~し、……するXX」においてあります。場合によっては、情報の重複は省略することも検討するほうがよいのか、現時点では判断を保留します。
なお公開訳冒頭の「ターゲット部分に投影する...」の修飾関係は、少し省略されすぎてかえって投影系を説明することが曖昧になっている印象も受けました。
まとめ
今回、請求項を含む一連の訳出と検討に多くの時間を要し、課題も山積ですが、学びは多くありました。この学びを次の自力翻訳に反映させます。
ただしその前に、やるべきことができました。
前回のトライアルの結果、「不合格」でした。実力不足は自覚していたとはいえ、その時点では全力で取り組んだので、悔しさと落胆は大きかったです。
今は、その実力を受け止め、何が至らなかったのか振り返り次への成長の糧にすべく、見直しを行います。
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