これまでリソグラフィと言えばフォトリソグラフィを前提に考えてきました。しかし実際には、リソグラフィ技術には様々な方式が存在します。今日はその中でも特にナノインプリントリソグラフィ(NIL)に焦点を当ててみます。
リソグラフィとは
リソグラフィ(lithography)は、本来「Litho-(石)」+「-graphy(描画)」 にその語源を持ちますが、現在では、基板上に微細なパターンを形成する技術全般を指します。
リソグラフィ技術を大きく分けると、「光を使用するもの」、「光を使用しないもの」、に分類できます。
光を使用するものには、光源の違いにより、例えばフォトリソグラフィ(紫外線を使用)・X線リソグラフィ(X線リソグラフィを使用)・EUV(極端紫外線を使用)・干渉リソグラフィ(レーザー光の干渉を利用)、があります。
また光を使用しない、物理的・化学的なプロセスによるものには、例えばナノインプリントリソグラフィ(NIL)を含め、電子ビーム(電子ビームで直接微細パターンを描画)・イオンビーム(イオンビームで微細パターンを描画)や、磁気リソグラフィ(磁場を利用して磁気パターンを形成)、熱リソグラフィ(局所的な加熱でレジストを変形させてパターン形成)、があります。

ナノインプリントリソグラフィとは
ナノインプリントリソグラフィ(Nanoimprint Lithography)は、スタンプ型(マスク)を用いて、ナノスケールのパターンを基板に転写する技術です。
フォトリソグラフィとは異なり、光を用いず、物理的な型を押しつける「はんこ方式」と考えると理解しやすいです。特に、フォトリソグラフィは縮小光学系を利用してナノレベルの微細パターンを形成するのに対し、NILは等倍のテンプレートでナノスケールのパターンを実現する点が大きく違います。

ナノインプリントリソグラフィの主な方式
NILには大きく、 熱方式(Thermal NIL) と UV方式(UV NIL) の2種類があります。
1)熱方式(Thermal NIL)
熱方式では、基板上に塗布し加熱したレジスト(樹脂)をに型を押しつけ、冷却して固定(固化)するのを待って離型します。
冷却を待つ時間が長いことや、加熱によって型が膨張するなど熱変形を起こすことが課題です。
2)UV方式(UV NIL)
UV方式では、UV硬化型レジストを基板上に塗布し、透明な型をレジスト上に配置してUV照射します。UV硬化を終えるのを持って離型します。
熱方式と比較し、加熱工程が不要で室温・瞬間硬化も可能であるなどプロセス時間が短縮可能です。
ナノインプリントリソグラフィにおける位置合わせ・重ね合わせの課題
ナノインプリントリソグラフィ(NIL)では、フォトリソグラフィと同様、多層構造のデバイスの製造においてはその位置合わせだけでなく、各層の重ねあわせが重要になります。しかしフォトリソグラフィとは異なり、物理的な型(マスク)の押しつけによるずれ・歪みが発生するため、オーバーレイ精度を確保することが難しくなります。
ずれの要因:
・型(マスク)を物理的に押しつける際の圧力むら
・基板表面の僅かな凹凸
・(熱方式であれば)熱膨張・収縮
従来ナノインプリント技術は、直接基板上に最終構造物を作る手法(基板上への直接成形)し、多層構造が不要な分野への応用はあっても、半導体への応用が進まなかったようです(Nanoimprint Finally Finds Its Footing)。
Canonのサイトでナノインプリント技術を見ると、これに対応した技術の説明がありました。
まずウエハの位置ずれを計測します。1nm以下の精度で、マスクとウエハの相対位置をリアルタイムに計測できることが特徴です。

ただ、問題は単に位置合わせができればよい訳ではない、という点です。先ほど記載したように、NILでは、物理的にマスクを押しつけるために発生する局所的なずれ・歪みが生じてしまいます。特に多層構造でのオーバーレイ精度を確保するには、この補正できて初めて正確な重ねあわせが実現できます。
そこで、ウエハの特定の場所をわずかに変形させることで位置ずれを補正する、というアプローチが採られました。DMD(デジタルマイクロミラーデバイス:超小型ミラー)を用いてレーザー光の方向を調整し、ウエハ上の特定の位置にだけ熱を照射する技術です。これによって、熱膨張の分布を局所的に変えます。つまり従来、ウエハのレジスト工程では避けるべきもの、とされてきた熱負荷を逆手に取って利用する発想です。

まとめ
このように「ずれ(歪み)が発生することを前提にして、それを後から補正する」というアプローチは、ナノインプリントリソグラフィに限らず、他の分野の明細書でも見られます。例えば静電塗装では、プロセス上どうしても発生してしまうフリーイオンを完全になくすのではなく、ゼロにできないことを前提に除去する技術を用いる、という明細書もあり、エラー補正というアプローチとして共通点があると感じました。
参考:
キヤノン
https://global.canon/ja/technology/nil-2023.html
MONOist Canon Expo2023
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2310/26/news063.html
Semiengineering
https://semiengineering.com/nanoimprint-finds-its-footing-in-photonics
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