レーザーの発光原理と、その特徴的な4つの性質

man holding green and blue flashlights 学習記録

先日、身近な人工光源である白熱電球・蛍光灯・LEDについて整理しました。光との関わりは燃焼光源から始まり、白熱電球の発明によって、時間や場所を問わず光を使えるようになりました。その後、よりエネルギー効率の高い蛍光灯、さらには省エネの観点から進化したLEDへと、人工光源は時代のニーズに応じて進化してきました。

これら主に照明用途を目的とする光源とは一線を画す光源に、レーザーがあります。

身近なところでは、レーザーポインターやスーパーマーケットのセルフレジに置かれたバーコードリーダーなどで目にすることができます。ですがその応用は身近な機器にとどまらず、通信、医療、加工など広範囲な分野で活用されています。

ではレーザーは、他の光源と何が違うのでしょうか。
今回は、レーザーの発光原理と、その特徴的な4つの性質-コヒーレンス・単色性・指向性・集光性-についてまとめます。

レーザーとは

誘導放出(自然放出)を利用した光の増幅器または発振器。

light amplification by stimulated emission of radiationの頭文字をとって名づけられた。

理化学辞典(第5版)

レーザーの発光原理

レーザーも、物質に外部エネルギー(光や電気)を加え(励起状態)、そのエネルギー差を光として放出する、という点ではルミネッセンスの範疇に入ります。
ですが、レーザーは一般的なルミネッセンスとは異なり、発光原理に独自の特徴があります。

まずはレーザーの発光を3ステップに分けて追ってみます。

レーザー発光の3ステップ
レーザーの発光原理(OPRTONICSより)
吸収

光が原子に吸収されると、基底状態にある電子がエネルギーを受け取り、より高いエネルギー準位(励起状態)に遷移します。

自然放出

励起状態の電子は不安定で、一定時間が経つと自発的に基底状態に戻ります。
その際、エネルギー差に対応する光を放出します。

誘導放出

励起状態の電子に外部エネルギーが作用すると、その電子は基底状態に戻り、そのエネルギー差に対応する新たな光を放出します。

このときに放出される光は、外部からの入射光と振動数・電場の方向(偏光)・進行方向(光の向き)・位相が同じです。

外部光や自然放出によって数多くの電子が励起されている場合には誘導放出が連鎖的に発生し、放出される光の振幅が大きくなります。

一般的なルミネッセンスとの違い

一般的なルミネッセンスでは、励起状態の原子が自然に光を放出し((1)⇒(2))「自然発光」に近いものであるのに対し、レーザーは「制御された発光」です。
この違いは、(3)誘導放出の有無によります。

そしてこのように放出された光が共振器と呼ばれる装置で反射され往復することでさらに光が増幅されます。

レーザー構造(HOYAより)
補足:吸収・自然放出・誘導放出の理解のために

レーザー光のメカニズムの理解においては、以下の2つの側面に注目することで理解が進みました。

1.光が入射する際の電子の挙動

電子の分布状態に依存する。
・基底状態の電子が多い場合:吸収が起こりやすい
・励起状態の電子が多い場合:誘導放出が起こりやすい


光の減衰・光の増幅(OPTRONICSより)

2.電子のエネルギー準位

・励起状態の電子は、自然放出誘導放出という2つの現象を通じて基底状態に戻る。
・通常、エネルギー準位が高いほど電子数は少なくなる。
・レーザー動作時には、特定の励起状態で「反転分布」を実現する必要がある。そのため、外部からエネルギーを得ることで電子を励起状態に遷移させる(ポンピング)。

反転分布(OPTRONICSより)


※「反転分布」とは
通常の分布とは逆に、低エネルギー準位よりも高エネルギー準位に多くの電子が存在する状態を指す。

レーザ光の特徴

レーザー光の特徴として、以下の4つが挙げられます。

  1. コヒーレンス(可干渉性)
  2. 単色性
  3. 指向性
  4. 集光性
コヒーレンス(可干渉性)

コヒーレンス(可干渉性)とは、光の波がどれだけ揃っているかを示す指標です。

コヒーレンス(ROHMより)

自然光やLED光に対し、レーザー光では振動が規則正しく、波が重なり合います。この性質のため、レーザー光は、特定の方向に集中して進み(指向性)、細かく正確な制御が可能になります。

このコヒーレンスは、時間コヒーレンス空間コヒーレンスに分けて考えます。
それぞれが光の異なる性質を示し、技術的応用に直結するからです。

時間コヒーレンス

時間コヒーレンスは、波長が時間的にどれだけ揃った状態を保てるか(時間的な揃い)、を示す指標です。

時間コヒーレンス(OPTRONICSより)

現実のレーザー光は(厳密には理想の単一波長ではなく)波長のばらつき(Δλ)を含みます。

そのため、波が揃っている時間には限りがあります。この時間をコヒーレンス時間Tといい、T2/cΔλ(λ:波長、c:光速、Δλ:波長のばらつき)で表し、異なる波の位相が一致して干渉を起こせる時間の尺度です。このコヒーレンス時間Tに光速cを掛けたものがコヒーレンス長ℓcで、ℓc=cT=λ2/Δλと表せます。この式からも分かるように、Δλが小さいほど(波長のばらつきが少ないほど)、コヒーレンス時間とコヒーレンス距離が長くなり、波が長時間揃っている(干渉性を長く保てる)といえます。

時間的コヒーレンスは、どれだけ波が揃って進めるか、の話であり、波長のばらつきが小さいほど時間コヒーレンスが優れていると言えます。

これは主に、後で述べるレーザーの単色性に直結し、光ファイバー通信(光が長い距離を伝送される間、信号の干渉性を維持する必要がある)や、干渉計測(長いコヒーレンス時間を必要とする)に役立ちます。

空間コヒーレンス

空間コヒーレンスは、光源の異なる位置から出た光が、空間的にどれだけ揃った状態を保てるか、を示す指標です。
例えば白熱電球のように全方位に放出される光は、波の重なり合いが生じにくいですが、レーザー光のように規則正しく同一方向に平行に進む光であれば、重なり合いが容易になります。

空間コヒーレンスは、どれだけ広がらずに波が進めるか、の話であり、光が広がらずに特定の方向に進むほど、空間コヒーレンスに優れていると言えます。

これは主に、後で述べるレーザーの指向性に直結し、レーザー加工やホログラフ加工などへの応用において鍵となります。

単色性

レーザー光は、波長のばらつきが非常に小さく、ほぼ単一波長に近い性質を持ちます。単一波長の光は、可視光の中でも特定の狭い波長範囲に集中するため、純粋な色として知覚されます。

具体例として、ヘリウムネオンレーザー(632.8nmの赤色光)などが挙げられます。

レーザーの分光分布(シグマ光機より)
指向性

レーザー光は非常に高い指向性を持ち、光がほぼ平行に進みます。このため遠距離でも光は拡散しにくい特徴があります。
この性質により、光ファイバーを使った通信や長距離伝送が可能です。

集光性

レーザー光は、レンズや光学系を用いることで、非常に小さな点に集束する高い集束度を持ちます。
この性質により、精密加工や医療用の手術ツールとして活用されます。

レーザー光と他の光源(白熱電球・蛍光灯)との比較

最後に、レーザー光と他の光源との比較として表にまとめます。

特性レーザー光熱電球・蛍光灯
発光原理誘導放出した光の増幅自然放出による発光
時間コヒーレンス高い(単色性に優れる)低い(波長のばらつきが大きい)
空間コヒーレンス高い(指向性が高い)低い(揃いにくく、干渉性が低い)
指向性非常に高い(ほぼ平行に進む)低い(全方向に広がる)
集束度高い(小さい点に集束可能)低い(広範囲に広がる)

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